株式会社 エネット
経営企画部長
谷口直行さん
NTTファシリティーズなどを経て、2010年、エネットへ入社。
楽天エナジー
エネルギー事業部
プラットフォームグループ
マネージャー 窪田拓也
日本オラクル、博報堂などを経て、2009年、楽天へ入社。
新電力のリーディングカンパニーであるエネットは、楽天エナジーと一般家庭の電力需要家を想定ターゲットとしたエネルギーサービスの実証実験を行った。スマートフォンアプリを用い、ポイントや特典を貯めるというインセンティブで一般ユーザーを動かす――。電力小売全面自由化が迫る中、エネット×楽天エナジーの取り組みは、エネルギー業界に何を示唆するのか?
[谷口] 当社は「家庭の中での個人の行動と節電の関係を明らかにする」ための提案を受けたと理解し、当社の課題との親和性が高いと感じました。それまでの節電やCO2削減では、機器を省エネ機器に変えることによって量を減らして、無駄な消費を減らしましょうという取り組みはありましたが、もう少し踏み込んだ、ユーザーが日常生活の中で取る行動が消費電力に与える影響に着目した取り組みは少なかったのです。我々としても2016年以降を見据えると、ユーザーの行動に踏み込まないと、需要と供給の協調的なバランスが取れないという思いを持っています。バランスを取るためには、消費形態を理解しなければ実現しないと考えており、消費者の行動にはずっと注目していましたし、どうやって定型化と定量化するかが課題でした。
[窪田] 楽天エナジーとしましては、ユーザーにいかに行動を起こさせるかが鍵となりますので、ポイントの与え方や出かける時間の設定の仕方など、条件や内容の設定が重要な点となりました。エネット様との会議を経て、エネット様が行いたいことや知りたいことを実現できるように調整をしていきました。また、データを定量的に捉える点で重要な役割を果たしたのが、楽天リサーチです。実証中のチェックイン発生数やポイント進呈数の結果だけでは、ユーザーがどう行動し、何を思って外に出たのかが明確にはなりません。そこで、ユーザーに対して質問を投げかけてリサーチを行い、実際に出かけた時の電気の使用状況や動機を定性的に紐づけることで、ユーザーの行動と電気の使われ方がどのように連動したのかを総合的に分析していきました。
[谷口] 実証を経て、想像以上に良い結果が得られたというのが最初に持った感想です。「こんなに多いのか」と驚いたのは、出かける予定のなかったユーザーが、この仕組みをトリガーに出かけた例が相当量確認できたことです。
[窪田] チェックインした人の数は、同月別週の同じ曜日に比べれば、パーセンテージが上がっていました。質問の回答にも「いつもよりポイントを多くもらえるから行動した」という結果が多く得られたので、ポイントというインセンティブで、人が動いて、結果的に電力消費の抑制につながることが分かったのは、大きな成果だと感じました。
[谷口] また、単にポイントやお金という側面だけではなくて、環境貢献や節電を意識して行動を起こしてくれたユーザーも、今回の実証の中だけで、相当数いるという実感を得たことは、今後の取り組みに向けての希望と期待となりました。
[窪田] この結果は、サービスを提供する側がユーザーに動機を与える仕組みをきちんと整えれば、積極的に参画してくれるユーザーが相当数現れるということを示唆しています。それを今回の実証で確認できただけでも、非常に大きいと感じるのです。
[谷口] 楽天ポイントのような、マスを対象としたプラットフォームを利用すれば、電気の知識がないユーザーにも、行動のきっかけを与えることができます。行動を重ねて行くうちに、徐々に電気の知識を得て行く機会も増え、環境貢献などへの意識から行動を起こすように発展していくでしょう。
[谷口] 海外でもスマートフォンなどを利用した節電やエアコンを遠隔操作する取り組みなどはあります。ただ、家全体の電気の節電といった感じで、ある一つの集合体を評価するという切り口です。今回の実証は、一人一人の行動がより大きな集合体である地域社会に置いて、どの程度の影響を与えるかを評価したものです。このケースは世界的にもおそらく初ではないかという認識でいます。今回の結果を一つの基盤として、2016年の電力小売全面自由化に応用できるように上手く展開していけば、消費者の中の潜在値から発電所の代わりとなるネガワットが作り出せると思っています。
[窪田] 海外にはスマートメーターがなくても、スマホアプリやSMS、E-mailなどを駆使して合理的な家庭向けデマンドレスポンスを実施している電力会社が存在します。私達は、このような海外のベストプラクティスを取り入れることで、日本国内での一般家庭向けの付加価値の高い新しいエネルギーサービスの実際展開を目指していきます。そこで鍵となるのは消費者の持つ潜在値の顕在化です。消費者の意識を高めるために、プラットフォームを活かした情報発信を行うことも、楽天エナジーの役割だと考えています。これまでは「R Energy Switch」というエネルギー情報に特化したブログニュースの運営をはじめ、制度や業界ルールに関する解説など、BtoB向けの情報に重きを置いていましたが、最近では家庭でも関心を持ってもらえるようなニュース配信や取り組みを取り扱うなど、積極的に発信していくようにしています。知ると意識が随分と変わるというのは、我々も日々の活動の中で実感しているので、今後も力を入れて行きます。
[谷口] 一般家庭の人の潜在値はとても大きいものです。例えば、東京電力の最大電力は2011年の東日本大震災前で約6000万kWでした。でも、この数値に対して90%以上の供給が必要となった発電延べ時間は猛暑であった2010年ですら1年間の内たった216時間で、年間3%以下になります。つまり、たった216時間をネガワットで代替するだけで、600万kWを削減できます。火力発電設備の投資費用が1kW当たり10万円と考えれば、約6,000億円の設備投資をしなくても安定的に電力供給が可能になるのです。こういう価値を消費者が認識をして行動を起こせば、低コストと省CO2を実現した電力の安定供給が実現可能となってくるでしょう。
[窪田] もともと楽天はEコマースのモール事業から始めたBtoBtoC型のプラットフォームを提供する会社であり、Cに向けたサービスがたくさんあります。今回の実証で利用したスマートフォンアプリ「スマポ」も、そのうちの一つで、これ以外にもさまざまなサービスがあります。それらを上手く電力やエネルギー業界に適応していければ、自由化した時に、ユーザーが望む形で提供できるサービスを作れるかもしれません。
[谷口] 当社としては、ソフト開発やマスに働きかけることができるプラットフォームを持つ楽天さんとの協働を通じたりしながら、実証や研究を重ねて行き、2016年の電力小売全面自由化を、世の中はもちろん一人のユーザーから見ても、有益で実効性のあるものにしていきたいと考えています。
株式会社NTTファシリティーズ、東京ガス株式会社、大阪ガス株式会社により設立された新電力(特定規模電気事業者)。日本全国の1万8000件を超えるユーザーに電気を届け、新電力のシェアは50%を占める。